2023.01.27
危機管理
トラック事故における責任の所在は? リスクに備えてやるべきこと
交通事故では、発生した損害に対して様々な補償や賠償が発生します。では、トラックを運転中に交通事故が発生した際、事故の責任は誰が取るのでしょうか?
この記事では、トラック事故における責任の所在と、リスクに備えてやるべきことについて解説します。
目次
トラックが事故を起こした場合の賠償負担責任
トラックによる交通事故では、被害者の身体や車両、それに付随するものなど、様々な対象に賠償責任が発生します。
トラックの運転手(従業員)が、加害者として交通事故を起こしてしまった場合には、民法第709条(不法行為による損害賠償)に抵触し、事故によって生じた損害を賠償する責任を負うことになります。事故を起こした当事者である運転手には、法律に準じた賠償負担責任が課せられます。
賠償負担責任の対象
賠償負担責任の対象は、具体的な損害や損失を与えてしまった被害者です。交通事故を起こした加害者である運転手は、相応の賠償を行う義務が生じます。また、交通事故の内容次第では、事故を起こした運転手が、所属する会社に対して賠償金を支払う事例もあります。
従業員が起こした事故でも会社は責任を問われる
交通事故における責任の所在は、事故を起こした当事者だけではありません。責任は、当事者である従業員が所属する会社にも及びます。
会社に課せられている具体的な責任
事故を起こした加害者が、会社に雇用されている従業員である場合、会社には従業員に対して「使用者責任」と「運行供用者責任」と呼ばれる責任が発生しています。
使用者責任とは、“特定の事業を遂行するにあたって他人を使用する者は、雇っている者が第三者に加えた損害の賠償責任を負う”という規則であり、民法第715条に明記されている法律です。
対して運行供用者責任とは、“車両の運転業務によって特定の利益を受けている者は、所有車両が起こした交通事故について責任を負う”という規則であり、こちらは自動車損害賠償保障法に具体的内容が明記されています。
日本の法律では、従業員本人が交通事故を起こした当事者であっても、従業員を使用することで利益を得ている会社にも賠償責任が及ぶのです。
すべての責任を会社が負うわけではない
上述の法律により、会社には賠償責任が発生します。ただし、事故の内容次第では、会社が従業員に対して損害賠償請求を行うことも可能です。会社に賠償責任義務が生じるのは、従業員の正当な業務中に事故が発生した場合です。
事故が起こった経緯や状況次第では、会社に対する責任が認められない事例も存在します。具体的には、飲酒など道路交通法から逸脱した運転が認められた場合、業務時間外における無断での社用車の利用時などが挙げられます。これらの事例では、使用者責任や運行共有者責任が発生しない可能性もあるのです。
このような場合、会社は事故を起こした従業員に対して、自社が被った損害を請求することができます。しかし、全額を請求することは難しく、過去の判例では、従業員に対して、一定の割合で損害賠償を認める判決がなされています。
トラック事故のリスクに備えてできること
トラックによる交通事故が起こらない、という補償はどこにもありません。運送会社は有事の際に備えて、然るべき準備をしておく必要があります。
保険に加入する
自賠責保険(自動車損害賠償保険)は、国内の公道を走る上で加入が義務付けられている保険です。ただし、保険の適用範囲は限定的であり、大規模な事故や損害賠償には対応できません。
万全を期す場合には、任意保険の加入が推奨されます。運送事業における任意保険は、補償内容に合わせて様々な種類が展開されています。
■主な任意保険の概要
- 「対人賠償保険」:交通事故の被害者に対して適用される保険。身体の損害が対象となる。自賠責保険では賄いきれない補償に対応できる。
- 「人身傷害保険」:自分自身や同乗者の身体の損害に対して適用される保険。ケガの治療費に加え、休業中の利益を補填してくれる種類なども存在する。
- 「対物賠償保険」:交通事故の被害者が所有する車やものに対して適用される保険。交通事故では対物破損率が高く、必要性の高い保険。
- 「車両保険」:自分の所有する車両の破損に対して適用される保険。衝突事故や自損事故、自然災害による被害など、様々な状況に適用した種類がある。
- 「運送保険」:運送業者貨物賠償責任保険。運送業者が預かっている荷物に対して適用される保険。補償の範囲は保険の型式によって異なる。
安全運転を徹底する
保険への加入は大切ですが、保険を適用しなければならない状況は、できるだけ避けねばなりません。トラック事故を防止するためには、道路交通法に準じた安全運転が最優先です。
全日本トラック協会が公開している2021年度の交通事故統計分析結果によると、一般道路における事故原因は「出会い頭衝突」が最も多く、次いで「左折時衝突」「右折時衝突」となっています。これらの原因からは、運転手の安全運転に対する意識の低下によって、もたらされた事故である可能性が示唆されています。
トラック事故防止のためには、トラック運転手自身が、安全や事故に対する高い危機意識を持つことがなによりも重要です。
〈参考〉全日本トラック協会 2021年度の交通事故統計分析結果
まとめ
トラック事故を起こした際の責任は、事故の当事者である運転手と所属する運送会社双方に生じます。具体的な補償や賠償は、事故の内容によって異なりますが、事故によって生じるリスクを軽んじてはいけません。トラック事業に従事する者には、事故のリスクを考慮し、安全な運転や相応の備えが必要不可欠です。