2024.04.30
危機管理
過労運転とは?法定基準や居眠り運転との違いについて
過労運転について、正確な法定基準や罰則をご存知でしょうか? 過労(過度な労働)が原因となって起こる過労運転等の禁止違反。しかし、正しい知識を持っている方は少ないかもしれません。この記事では、車両を運転する上で知っておきたい過労運転の基本的な知識について解説します。
目次
過労運転とはなにか
「過労運転等の禁止」は、交通に関する法律である道路交通法の66条に定められた法律です。同法66条によると、過労運転等の禁止とは、「過労(かろう)」病気(びょうき)」「薬物(やくぶつ)」「その他」の影響により、正常な運転ができない可能性がある状態にも関わらず、車両等を運転した際に低触する法律です。
これらの条件を一つでも満たしている状態で車両を運転した際には、然るべき罰則や行政処分の対象となります。
過労運転四つの原因
過労運転に低触する「四つの条件」について確認しましょう。
1:「過労」による違反
長時間労働などが原因となり、心身共に疲労が蓄積した状態を「過労」と呼びます。過労状態では身体能力や判断能力が低下し、車両の運転に支障をきたします。
そのような状態における運転が危険運転と判断されれば、過労による違反と認定されるのです。
2:「病気」による違反
病気が原因となり、危険な運転を犯した場合にも過労運転と認定されます。現在の法律では、過労運転の対象となる具体的な病気は定義されていません。
危険な運転の兆候が発覚すれば、病気の種類(内科的・外科的・精神的)を問わず、過労運転等の違反対象として精査されます。
3:「薬物」による違反
薬物を服用したことが原因で危険な運転をした場合にも、過労運転等の禁止に低触します。病気と同様に、具体的な薬物の種類は定義されていません。
薬物の定義は広域であり、違法薬物(大麻や覚醒剤など)はもちろん、合法な薬物(医師の処方薬や薬局で購入した薬など)であっても、運転に影響ありと判断された場合には、過労運転の対象となります。
4:「その他」の原因による違反
過労・病気・薬物に該当しない事例です。なんらかのストレスや悩み事、不安などが原因となり、心身のバランスを崩している場合や、病気に至らない程度の障害などが該当します。
過労運転と居眠り運転の違い
似ているような二つの運転義務違反ですが、現行の道路交通法に「居眠り運転」という定義はありません。居眠り運転による道路交通法違反の多くは、「安全運転義務違反」に該当します。
過労運転と居眠り運転は法律上異なる違反であり、違反の種類や罰則の対象範囲、罰則内容も異なっています。
違反の種類 | 罰則の対象範囲 | |
過労運転 | 過労運転等の禁止(道路交通法第66条) | 正常な運転ができない可能性があるにも関わらず、車両等を運転した場合 |
居眠り運転 | 安全運転義務違反(道路交通法第70条) |
車両等を運転して事故を起こした場合 |
二つの運転義務違反は、事故の状況や経緯を根拠に認定されます。居眠りの原因が「正常な運転ができないおそれ」に該当する場合などには、「過労」と判断され、過労運転等の禁止が適用される可能性もあります。
実際に起こった事故の中には、「居眠り」の原因が過労にあると判断され、過労運転が適用されたケースもあるのです。
過労運転の基準
一概に過労といっても、過労の基準は人それぞれです。法律上の具体的な基準については、自動車運転者の労働時間等の基準(改善基準告示)が参考になります。
トラック運転者の改善基準告示 | ||
一年間のトータル拘束時間 | 一ヶ月間のトータル拘束時間 | 一日のトータル拘束時間 |
原則:3,300時間 最大:3,400時間 |
原則:284時間 最大:310時間 |
継続11時間を基本とし、継続9時間 |
原則として、上記の改善基準告示を超過した労働が認められた場合には、過労運転と認定される可能性が高いでしょう。
〈参考〉厚生労働省 改善基準告示
過労運転の罰則や行政処分
過労運転等の禁止違反を犯した場合には、然るべき罰則と行政処分が課せられます。
過労運転等の処分内容
刑事処分 | 行政処分 | 違反点数 |
三年以下の懲役、または五十万円以下の罰金 | 免許の取り消し(免許の再取得ができない期間二年) | 二十五点 |
過労運転等(麻薬運転等)の処分内容
刑事処分 | 行政処分 | 違反点数 |
五年以下の懲役、または百万円以下の罰金 | 免許の取り消し(免許の再取得ができない期間三年) | 三十五点 |
過労運転等の禁止違反に、事故の有無は関係ありません。過労運転と判断されれば、事故を起こしていなくても処罰の対象となります。また、過労運転によって事故を起こした場合には、さらに重い処分が想定されます。
事業者(会社や経営者)の責任とリスクについて
仕事中の過労運転など、業務上発生した違法運転に関してはドライバー本人だけでなく、事業者(会社や経営者)にも責任が及びます。
道路交通法第75条では、過労運転の命令や容認を禁じています。過労運転と知りつつ、ドライバーや従業員に運転を継続させる行為は違法です。
違反した場合には、事業者に対して「三年以下の懲役、または五十万円以下の罰金」が課せられます。
過労運転等の禁止違反が起こった実例
- ●2016年広島県山陽自動車道死傷事故:ドライバーに対して過失運転致死傷罪、運行管理者に対して過労運転下命罪の判決
- ●2016年岡山県過労運転指示:輸送会社社長を過労運転を命じた罪で書類送検
事業者側に想定されるリスク
過労運転を命令、容認した事業者には、道路交通法上の罰則以外にも以下のようなリスクが考えられます。
①損害賠償
過労運転事故により、ドライバーが死傷した場合、事業者はドライバー本人や遺族に対して損害賠償責任が発生する可能性があります。また、事故による被害者が発生した場合(ドライバー以外)にも、ドライバー本人に加え、過労運転を命令、容認した事業者に対しても損害賠償責任が生じる可能性があります。
②風評問題
ドライバーや従業員が重大な事故を起こしたり、事業者側の管理体制や就業環境に問題があったりした場合、事業者側のイメージは損なわれます。事業者側の信用喪失は顧客離れを誘発し、企業や会社の経営に大きな悪影響を及ぼしかねません。
まとめ
過労運転は、時として重大な事故を引き起こす可能性がある危険な行為です。当然のことながら、業務中の車両運転時には改善基準告示を遵守しなければなりません。
また、事業者やドライバー本人は、日頃から疲労を溜め込まないような施策を講じ、安全運転に努める必要があるでしょう。