2021.11.18

飲酒対策

事業用自動車における飲酒運転(酒気帯び運転)の罰則・行政処分について解説

目次

2021年6月、千葉県で白ナンバートラック運転手の飲酒運転にる小学生5人が死傷した凄惨な事故が発生しました。

トラック運転手の呼気からは基準値を超えるアルコールが検出されており、警察は飲酒運転の実態解明を進めています。

運送業界では各ドライバーに対して運転前のアルコールチェックが義務付けられているはずですが、実情としてはドライバーが遠隔の休憩中に飲酒をしていたり、点呼後の乗務時間中に飲酒をしていたりするケースも少なくないようです。

ここでは、白ナンバー・緑ナンバー両者を総じて、事業用自動車における飲酒運転の原因について考えながら、運転者と事業者それぞれに科せられる罰則や行政処分について解説し、従業員の飲酒運転を引き起こさないための対策を解説していきます。

事業用自動車による飲酒運転事故発生率

国土交通省の資料によると、飲酒運転による事業用自動車の交通事故の推移は、平成24年から横ばい傾向にありました。

しかし令和元年では飲酒運転による交通事故が増加しており、全体の発生数が56件であるのに対し、トラックの飲酒運転による交通事故だけで48件も発生したことが明らかになっています。

出典:(公財)交通事故総合分析センター「事業用自動車の交通事故統計」

出典:(公財)交通事故総合分析センター「事業用自動車の交通事故統計」

出典:(公財)交通事故総合分析センター「事業用自動車の交通事故統計」

各データ引用:​​https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03analysis/resourse/data/r02-1.pdf

飲酒運転の罰則規定

基本的に、飲酒運転によって交通事故を起こした場合には逮捕されることが一般的です。逮捕に至った場合、以下の2つの罪に問われる可能性があります。
 

罪名

内容

処分

自動車運転過失運転致死傷罪

飲酒運転によって事故をおこし、人を死傷させた場合

7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金

危険運転致死傷罪

アルコールの影響が大きく、酩酊(めいてい)しながらの運転な、酒酔い運転相当程度の危険を伴う運転により、人を死傷させた場合

・被害者が負傷のみの場合:15年以下の懲役

・被害者が死亡した場合:1年以上の有期懲役(20年以下の懲役)

 

それに加えて飲酒運転自体の刑罰も一緒に問われることになるので、刑期はさらに長くなります。

雇用しているドライバーが飲酒運転による事故を起こしてしまった場合、行政処分や罰則は運転者だけでなく事業者にも科せられます。

飲酒運転に対する基本的な行政処分・罰則として、道路交通法では以下のように定められています。

運転者への罰則

違反種別

罰則

違反点数

行政処分

酒酔い運転

5年以下の懲役

または

100万円以下の罰金

35

免許取消し

(欠格期間:3)

酒気帯び運転①

呼気中アルコール濃度 0.25mg以上

3年以下の懲役

または

50万円以下の罰金

25

免許取消し

(欠格期間:2)

酒気帯び運転②

呼気中アルコール濃度 0.15mg以上0.25mg 未満

同上

13

免許停止

(停止期間:90)

前歴がある場合は免許取消

飲酒検知の拒否

3ヶ月以下の懲役

または

50万円以下の罰金

 

 

※欠格期間…運転免許が取り消された場合、運転免許を受けることができない期間。

 

各行政処分については、前歴およびその他の累積点数がない場合の期間です。

 

また、実際に運転していなくても、飲酒運転をする恐れのある運転者に車両を提供したり、酒類を提供したりすると、「飲酒運転周辺者」として以下のような罰則・処分が下されます。

 

 

周辺者の助長内容

運転者の違反内容

罰則

該当する項目

車両提供をした場合

酒酔い運転

5年以下の懲役

または

100万円以下の罰金

道路交通法

65条の2

 

酒気帯び運転

3年以下の懲役

または

50万円以下の罰金

道路交通法

65条の2

酒類提供または同乗した場合

酒酔い運転

3年以下の懲役または50万円以下の罰金

道路交通法

65条の3

65条の4

 

酒気帯び運転

2年以下の懲役または30万円以下の罰金

道路交通法

65条の3

65条の4


なお、飲酒運転周辺者も運転者と同様に行政処分を受ける場合があります。

交通事故に発展した場合はそれにも増して、問われる民事責任や行政処分、社会的信用の失墜が深刻です。

民法715条及び自動車損害賠償保障法3条において規定されている、「使用者責任」に基づく損害賠償請求では、飲酒運転を軽視する社風だったり、飲酒の有無を確認するシステムを構築していなかったりした場合、会社側の責任が重く問われることになります。

物流・運送など、車を日常的に業務で使用する事業者の場合、車両使用停止・事業停止・営業許可取消といった行政処分が一定期間科せられます。

事業者への罰則および行政処分

運転者による酒酔い運転・酒気帯び運転があった場合、該当日数の事業停止処分が下されます。詳細については以下の表を参照してください。

 

ケース

行政処分

事業者が飲酒運転を下命、容認していた場合

14日間の事業停止

飲酒運転等を伴う重大事故があり、かつ事業者が指導監督義務に違反していた場合

7日間の事業停止

飲酒運転等に関わる道路交通法通知等があるにも関わらず、事業者が指導監督義務に違反していた場合

3日間の事業停止

酒酔い・酒気帯び乗務があった場合

・初違反…100日間の車両使用停止

・再違反…200日間の車両使用停止

運転者の飲酒運転を防止するために

雇用者が飲酒運転を引き起こした場合、事業者(会社)側への社会的批判や信頼の失墜など、会社が被る悪影響は長期的なリスクを背負います。

2021年10月現在、白ナンバーの車両に関しては、緑ナンバーの車両ほど厳密に定められていません。事業者側の危機意識を高く持ちながら、飲酒検査を徹底していくことが求められます。

事業者側ができることとしては、

  • ●飲酒検査の徹底
  • ●社員教育(飲酒運転防止システムの構築)
  • ●組織体制の見直し
以上の3点が主軸になっていきます。

飲酒検査の徹底

飲酒運転に対する罰則は2007年(平成19年)以降、強化され続けています。

2011年(平成23年)5月からは、自動車運送事業者様に運転者に対するアルコール検知器の使用(アルコール検査)が義務付けられました。

参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03alcohol/index.html

飲酒運転にまつわる罰則を受けない為にも、点呼の際にアルコール検知器の使用を徹底し、継続して飲酒運転の防止に努めていくことが何より大切です。

【事業用自動車におけるアルコール検知器を用いた飲酒検査にかかわる罰則】

違反内容

行政処分

アルコール検知器備え義務違反

検知器の備え無(備えなしとはアルコール検知器が1器も備え付けられていない場合をいう)

・初違反 60日車

・再違反 120日車

アルコール検知器の常時有効保持義務違反

常時有効保持義務違反とは

①正常に作動しないアルコール検知器により酒気帯びの有無の確認を行った際に適用する。

②正常に作動しないアルコール検知器であることを理由に酒気帯びの有無の確認を行った場合に適用する。

・初違反 20日車

・再違反 40日車


その他、点呼の未実施、不適切な点呼、点呼の記録違反等に罰則あり。

社員教育

従業員による飲酒運転を防止していくには、従業員に対する飲酒運転防止のための教育も同時に行ってください。

事業者が飲酒運転をしてしまう人の心理を理解した上で、ドライバー自身の人生に出てしまう影響を従業員に伝え、会社全体で飲酒運転の防止を徹底していきましょう。

飲酒運転をしてしまう人の心理

飲酒運転をしてしまう人の心理は、大まかに3パターンに分けることができます。

①:事故さえ起こさなければよいと考える人
②:アルコールが運転にもたらす影響を軽視している人
③:飲酒によって気持ちが大きくなる人


①と②に関しては、アルコールに対する意識が元々低い可能性があります。

過去に発生した飲酒運転事故の顛末を共有し続け、ドライバーの危険意識を高めてください。

③に関しては普段から安全運転意識が高くても、飲酒によって人格が変わったり、高揚感から油断や過信が生まれてしまったりします。

いずれのパターンにしても、アルコールチェッカーを導入して運転前や運転後のチェックを組織的に行っていくなどのシステムを確立していくことが重要です。

ドライバー自身の人生に出る影響

ドライバーが飲酒運転で検挙されたり、事故を起こしてしまったりした場合、事業者は規定に則って処分を下さなければなりません。

各従業員のプライベートに会社が関与することはできないため、基本的には飲酒運転が発覚したとしても懲戒処分をすぐに下すことはできません。

しかし、服務規定や労働契約書に必要事項が記載されている場合は懲戒処分を下すことができます。

勤務中の飲酒は処罰対象であり、就業時間外でも服務規定や労働契約書に「就業時間外でも処分する」と明記している場合は、懲戒解雇処分を余儀なくすることを従業員へあらかじめ伝えてください。

また、懲戒解雇に処された場合、再就職先が見つかりづらくなることも伝えていきましょう。

組織体制の見直しも必須

ドライバーが飲酒運転を起こさないためには、組織がドライバーに対して必要なケアやフォローを行えているかどうかも関わってきます。

例えば、

●ドライバーに多大なストレスを与えていないか
(ストレス発散で飲酒をする人が多いことから)

●会社としての飲酒運転撲滅への意識がどうなっているか
(ハンドルキーパーの任命、それに準ずる手当支給を行えているか)

など、様々な観点から飲酒運転の防止に努めていく必要があります。

飲酒運転事故の事例を共有しながら、行政処分や罰則についての意識共有も徹底し、アルコール検知器の使用を徹底していきましょう。

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