2023.05.16

運送業界

貨客混載で物流の生産性向上は叶うのか?メリットとデメリットを探る

貨物運送業界や旅客運送業界では「貨客混載(かきゃくこんさい)」という輸送形態が注目を集めています。国土交通省による規制が解かれたことで、需要が高まっている貨客混載。この記事では、運送業界の様々な問題の解決策として期待されている、貨客混載の内容について解説します。

目次

貨客混載とはなにを指すか

「物(貨物)」と「人(乗客)」を、同時に輸送・運搬することです。中でも「人を運搬することに特化した乗り物を利用して物を運ぶこと」を貨客混載と呼んでいます。

従来の乗り物は、法律の規制により物と人を明確に分けた輸送手段を取っていました。
 

  • ● 物を運ぶ手段:長距離トラック、宅配事業の車両、貨物鉄道、貨物機、貨物船など
  • ● 人を運ぶ手段:客車、路線バス、旅客者、旅客機、旅客船など

貨客混載では、従来と同様の乗り物(自動車・鉄道・飛行機・船など)を利用しながらも、「人」と同時に「物」を運ぶことが可能です。

貨客混載が注目されはじめた背景

2017年9月、国土交通省は旅客自動車運送事業者や貨物自動車運送事業者に対し、それまで禁止していた貨物自動車が人を乗せることや、タクシーやバスが荷物を運ぶことの一部を容認する規制緩和に踏み切りました。
 
規制緩和の背景には、一部人口過疎地域におけるタクシーや、路線バスなどの物流サービスの持続、増加する自動車運送業の人手不足解消などを挙げることができます。

規制緩和に伴い、貨客混載を採用する企業や事業所は徐々に増加しています。現在では、物流業界で叫ばれている多くの問題を解決するための重要な施策の一つとして捉えられているのです。

導入に際して

導入された当初、一部の過疎地にのみ許容されていた貨客混載ですが、2023年4月現在では全国で解禁されています。

ただし、貨客混載が可能となるのは、「貨物自動車運送事業」「旅客自動車運送事業」両方の許可を取得している事業者のみです。
 
また、貨物自動車で人を運ぶドライバーは、「第2種運転免許」を保持している必要があります。

〈参考〉国土交通省 貨客混載を通じた自動車運送業の生産性向上について

貨客混載のメリット

貨客混載の規制緩和によって得られる代表的なメリットは、以下の通りです。

運送事業者の収益増加

タクシーや路線バスは荷物を運ぶことが可能になり、貨物自動車によって人を運ぶことも可能になります。従来の「物」や「人」に特化した業務形態が拡大することで、収益の増加を期待することができます。

CO2の低減

これまでの運送事業は、環境負荷の大きいトラックに多くの業務を依存していました。貨客混載が進むことで、CO2排出量を押さえた輸送システムへの移行が可能になり、環境負荷に対する対策促進効果が期待できます。

事業コストの削減

貨客混載では、従来の目的に使用していた手段やスペース(タクシーのトランクや高速バスの空きスペースなど)を利用して物や人の輸送・運搬を行います。従来存在する手段や場所を利用することから、物流に必要なコストを削減することが可能です。

貨客混載のデメリット

貨客混載はメリットばかりではありません。導入の際にはデメリットも把握しておきましょう。

業務範囲の複雑化

貨客混載では、公共交通事業者と物流事業者の双方が協力して業務を担わなければなりません。具体的な作業の段取りや担当、認識や意識の共有など、貨客混載故の業務複雑化は避けられません。

実施までに必要な準備

貨客混載を実現するためには、双方の企業による調整が必要不可欠です。発案から実施までには、安全性や利便性、双方のメリットなど、様々なすり合わせが必要になります。

運搬量やスケジュールの制約

双方のシステムや、技術を利用する貨客混載。運搬量やスケジュールを、自由に設定できるわけではありません。公共交通機関のダイヤやスペースの物理的制限など、制約のある中で効率的な運用が求められます。

貨客混載の導入事例を紹介

全国では貨客混載の導入が増加しています。具体的な事例をご紹介します。

事例①:〈丹後海陸交通株式会社(丹後海陸交通)×ヤマト運輸〉

概要:過疎化や高齢化が進む地方都市における路線維持と、業務改善を目的とした路線バスと高速バスの貨客混載
 
利用者の減少に伴い路線維持が課題となっている丹後海陸交通(路線バス)と、営業所からの集配効率を改善したいヤマト運輸。双方の課題解決のため、貨客混載が行われています。
 
ヤマト運輸のスタッフが丹後海陸交通のバス停で荷物を積み込み、所定のバス停で荷物を回収します。この貨客混載により、丹後海陸交通の収益改善と、ヤマト運輸の集配効率改善がなされています。

事例②:〈佐川急便株式会社✖️エムケイ株式会社×株式会社JALエービーシー〉

概要:運送業者と航空会社とタクシー会社が連携した、手荷物即日配送サービスの貨客混載
 
関西国際空港から京都近郊の観光需要拡大に伴い、手荷物預かりサービスや即日配送サービスのニーズが増加。3社が協議の上で、貨客混載を利用したサービスに着手しました。
 
JALのエービーシーカウンターで預かった荷物を、エムケイ株式会社のタクシーが佐川急便の営業所へ配送。佐川急便が受け取った荷物を指定の場所へ配達することで、利用者は手ぶらで観光を楽しむことができるようになっています。

貨客混載の課題と展望

貨客混載の規制緩和によって、恩恵を受けている事業者や利用者の数は増加しています。ただし、継続的な需要のためには、多くの課題があることも事実です。

貨物事業者側の課題事例

  • ● 運搬できる量や内容
  • ● 運搬時の荷物の管理(積載方法や安全性など)
  • ● 旅客事業者に委託する際のコスト
  • ● 荷下ろしのタイミングや場所の設定 など

旅客事業者側の課題事例

  • ● 旅客者の安全性や快適性の担保
  • ● 貨物の運搬や荷下ろしによる運行ダイヤへの影響
  • ● 委託を受けることによる損益のバランス
  • ● 事故やトラブル時の対応 など

これらの課題と向き合いながら、異なる企業同士がメリットを享受できるような貨客混載システムの構築が求められています。

今後の展望は

国土交通省は、旅客自動車運送事業者や貨物自動車運送事業者に対し、従来の業務だけではなく、新しい事業展開に伴う生産性向上を促しています。その一例が貨客混載なのです。
 
最近では、上述の導入事例以外にも、インターネット上のクラウドシステムを導入した貨客混載事例なども見られるようになりました。今後は、IT技術を駆使した事業の貨客混載が一般化していくかもしれません。

BACK TO LIST

KEYWORD キーワード