2023.04.28
運送業界
2024年問題とは?物流業界に懸念される影響や課題について
様々な要因が重なり、長時間に及ぶ時間外労働が問題視されている貨物自動車運送業界。慢性化する労働環境を改善するために、2024年から働き方改革関連法が規制されます。
この記事では、2024年から改革される物流業界の働き方改革関連法により、懸念される物流業界への影響や今後の課題などについて解説します。
目次
2024年問題の概要
2024年問題とは、働き方改革関連法(労働者の労働環境改善を目的として制定された法律)の改正によって、物流業界のドライバーに対して懸念される不利益を指した総称です。
関連法の改革内容自体が労働環境を悪化させるわけではありませんが、結果的に様々な不利益を生んでしまう可能性が指摘されています。
具体的な影響に言及する前に、働き方関連法の目的や、2024年から施行される具体的改正内容を確認していきましょう。
働き方改革関連法と改革内容
策定の背景
働き方改革関連法は、様々な生活環境にある労働者に対して、より柔軟な働き方を選択・実現できることを目的として整備された法律の通称です。
具体的には、少子化や高齢化に伴う労働人材の不足問題や、育児や介護などによって就労時間が制限されている労働者への対応が期待されています。
改革の中身
2019年から施行されている働き方改革関連法。物流業界では、長時間労働や過酷な労働環境が問題視されてきました。
改革の一環として、2024年から物流業界の改善基準告示の改正が決定しています。対象は事業用自動者運転者(緑色ナンバー)、自家用自動車運転者(白色ナンバー)です。
トラック運転者の改善基準告示の改正
〜2024年3月31日 | 2024年4月1日〜 | |
1年間の拘束時間 | 3,516時間 | 原則:3,300時間 最大:3,400時間 |
1ヶ月の拘束時間 | 原則:293時間 最大:320時間 |
原則:284時間 最大:310時間 |
1日の休息時間 | 継続8時間 | 継続11時間を基本とし、継続9時間 |
連続運転時間 | 4時間を超えないこと (30分以上の休憩等の確保、1回10分以上で分割可) |
4時間を超えないこと (30分以上の休憩の確保、1回概ね10分以上で分割可) |
時間外労働の上限規制 | 年間1,176時間 | 年間960時間 |
〈参考〉公益社団法人 全日本トラック協会 改正改善基準告示
厚生労働省 改正改善基準告示
2024年問題の実態と物流業界に与える影響
改善基準告示の改正によって、トラック運転者の労働時間は改善されることになります。
一見すると、労働環境の改善が見込まれる改正に思われます。
しかし、現実的には物流事業者やドライバーにとって、様々な不利益をもたらす可能性が懸念されています。具体的な懸念点をまとめました。
売上・収入の減少
在籍するドライバーの労働時間が減少することで、企業や事業所の売り上げも低下します。
また、時間外労働時間が規制されることで、ドライバーは以前のような労働時間を確保することはできなくなります。必然的に、走行距離や稼働時間によって加算されてきた賃金は減少します。
人材の流出
時間外労働時間の規制による収入の減少に伴い、業界から離れていく労働者の存在が懸念されます。物流業界の慢性的な人材不足に、拍車が掛かってしまうかもしれません。
コストの上昇
売上・利益の減少や人材の流出に伴うコスト(運賃など)の上昇が予想されます。コストの上昇は物流業者を利用する関連企業に影響を与え、ひいては消費者への負担増加にも繋がっていきます。
危険運転のリスク
労働時間の減少や休憩時間の増加は、ドライバーの心理にも大きな影響を与えるでしょう。限られた労働時間の中で生産性を維持するためには、以前よりも高いパフォーマンスが要求されます。
時間やノルマに追われる焦りが、危険な運転や怠慢な意識を生み、交通事故やトラブルのリスク増加に繋がる可能性があります。
企業に求められる対策と取り組み
メリットばかりとは言い切れない働き方改革関連法の改正。運送業や旅客業など、物流業界関連企業は、2024年問題を念頭においた対策や取り組みが求められます。各企業の対応策のポイントを見ていきましょう。
業界内の労働環境整備
従業員が働きやすい労働環境の整備は、企業や事業所にとっての責務です。
様々な雇用形態や就労制度、育児休暇や有給の消化などの福利厚生面の充実は、人材の流出を防ぐばかりか、新規参入を検討している方にとっても大きなメリットです。
また、報奨やキャリアアップ制度など、従業員のモチベーションを維持するための具体的な対策強化も重要な施策です。
IT導入による業務効率化
積極的なIT導入による業務のデジタル化は、人件費や従業員の稼働時間に関して大きなメリットをもたらしてくれます。
現在でも、貨物自動車運送事業におけるアルコールチェックシステムのデジタル化や、物流倉庫内におけるロボットを用いた在庫管理など、デジタル技術導入は促進されています。2024年問題を背景に、より積極的なデジタル化の推進が急務となるでしょう。
他業界との連携
物流業界の仕事は荷主企業やメーカー、小売業者など、様々な業界との連携の上に成り立っています。改善基準告示の改正に伴う労働時間の効率化や最適化を実現するためには、他業界との密な連携が欠かせません。
企業同士の物流の連携事例としては、荷物の共同輸送や倉庫・配送の共同化、物流ネットワークの一点集約などが挙げられます。
企業双方の利害が一致することにより、組織の壁を取り払った連携が可能になり、全体としての労働生産性向上を期待することができます。
まとめ
働き方改革関連法による物流業界の2024年問題は、差し迫っています。労働時間を削減することで、長時間労働やサービス残業は減少します。
しかし、労働時間の削減は業界にとって必ずしもメリットばかりではありません。関連企業や事業所は、労働時間の制限による環境の変化について、具体的な対策が急務となっています。