2023.07.26
運送業界
酒気帯び運転発覚!従業員が捕まった際の会社責任について
酒気帯び運転は、道路交通法により定められている犯罪です。酒気帯び運転が発覚した際の法的責任は本人だけには留まらず、所属する会社にも及ぶ可能性があります。当事者や会社に課せられる法的罰則。
この記事では、従業員が酒気帯び運転で捕まった際の会社の責任や対応、可能な予防策について解説します。
目次
酒気帯び運転における会社の責任
従業員が酒気帯び運転で捕まった際に、会社が負わなければならない責任は以下の通りです。
法的責任
特定の法律に基づき、個人や組織に課せられる責任です。酒気帯び運転における法的責任は、3種に大別されています。
①刑事責任
犯罪として刑罰を受けるべき、刑法上の責任です。酒気帯び運転における刑事責任は、道路交通法に定められています。従業員の酒気帯び運転に際して、会社が刑事責任を問われる可能性を確認します。道路交通法「酒気帯び運転の禁止」第65条 第2項 |
「何人も、酒気を帯びている者で、車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない」 |
上述の内容は「車両等提供罪」として処罰の対象となります。車両等提供罪は、運転する車両の名義や所有権に関係はなく、酒気帯びを知った上で運転を許可・容認する行為が認められれば成立します。
車両等提供罪が立証された場合には、会社の代表者や事業所の運行管理者等に対し、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。
〈参考 警視庁 飲酒運転の罰則等〉
②民事責任
加害者が被害者に与えた損害に対して、発生する賠償責任です。従業員の酒気帯び運転が原因となり死傷した被害者に対しては、会社にも民事責任が生じます。民法715条「使用者等の責任」 |
「ある事業のために他人を使用する者は、従業員がその事業の執行に際して第三者に加えた損害の賠償責任を負う」 |
自動車損害賠償保障法3条「自動車損害賠償責任」 |
「運行供用者は、運行によって他人を死傷させた場合、これによって生じた損害賠償責任を負う」 |
飲酒による交通事故では、上述の法律を根拠に民事責任が追及されます。運行供用者とは、加害運転者の運行を管理・統制する立場の者を指します。
つまり、従業員が酒気帯びによって事故を起こした場合、従業員当人はもちろん、雇用主である会社にも損害賠償責任が生じるのです。また、会社が酒気帯び運転を許可・容認した事実があれば、民事責任はさらに重くなることが予想されます。
〈参考 民法715条〉
〈参考 自動車損害賠償保障法〉
③行政責任
行政法規の違反によって損害や被害を与えた結果、その行為に対する行政上の責任です。会社が貨物運送事業等を展開しており、所属する従業員が酒気帯び運転を起こした場合などが該当します。当該会社には、違反の内容や事例により、一定期間の車両使用禁止処分や事業停止処分などの行政処分が下されます。
倫理的責任
社会的な信用失墜に対する責任です。飲酒運転が厳罰化する昨今では、社会的な影響の大きな事件や事故を引き起こしてしまった会社のイメージや信用は失墜します。
一度失った信用は、法的責任をまっとうしたとしても回復する保証はありません。SNSなどにおける炎上や口コミによる会社の低評価など、社会的な制裁を受けることもあるでしょう。
失った信用を回復するためには、会社内のコンプライアンスの強化や飲酒教育、社会貢献など、信用回復に向けた自主的な行動が必要不可欠です。
酒気帯び運転者に対する会社の対応
酒気帯び運転で捕まった従業員に対する会社の処罰には、法的責任のような一貫した基準はありません。各企業は、各々の就業規則や職務基本規定に基づいた対処を講じます。
対応①懲戒解雇
一般的な会社において、従業員の違反行為に対するもっとも重い処罰は懲戒解雇です。懲戒解雇が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- ●就業規則に懲戒処分についての具体的条件や規定が明記されている
- ●就業規則に明記されている懲戒処分の内容が従業員に周知されている
- ●懲戒処分に至るまでの手続きが正当な手順に基づいて成されている
- ●従業員の行為が懲戒処分に値する
- ●過去の類似案件と比較し、処分内容が平等性を欠いていない
対応②その他の懲戒処分
各会社が定めている就業規則には、行為に応じた懲戒処分が明記されています。量刑は行為の性質や内容、もたらす影響などを総合的に考慮して決定しなければなりません。酒気帯び運転における主な懲戒処分の内容は以下の通りです。
- ●減給:就業規則に基づき、本来の賃金から一定の金額を差し引く処分
- ●出勤停止:一定期間における就業を禁止する処分
- ●降格:会社内の役職や職位を引き下げる処分 など
懲戒処分の可能性
酒気帯び運転を起こした従業員に対する懲戒処分の有無は、各会社の就業規則に準じます。一般的に懲戒処分の可能性が高い事例は、以下の通りです。
- ●酒気帯び運転者が運転を常時担っているドライバーである
- ●貨物・旅客運送事業従事者である
- ●公務員など、公共サービスを執行する職務に従事している
- ●酒気帯び運転によって人身事故等を引き起こした
- ●マスコミ報道やSNSの炎上が著しい など
上述の条件に当てはまるような事例では、なんらかの懲戒処分が課せられる可能性が高いといえます。
対して、上述の条件に適合しない事例(日常的に車両の運転に従事していない従業員、プライベート時間における事故など)では、必ずしも懲戒処分の対象となるわけではありません。
会社が実施すべき酒気帯び運転の予防策
酒気帯び運転を軽減するためには、従業員に対する日常的な意識づけが重要です。会社として必要になる取り組みをまとめました。
飲酒に対する従業員教育
従業員に対する飲酒運転教育の徹底は、効果的な予防策の一つです。現在では、企業向けの飲酒教育カリキュラムや啓発セミナーなど、社内外を問わず飲酒運転撲滅活動が充実しています。
十分な飲酒教育は、酒気帯び運転の予防に役立ちます。定期的かつ長期的な教育活動が重要です。
アルコール検査の徹底
貨物・旅客運送事業など、一部の業界では義務化されているアルコールチェック。一般企業においても、安全運転管理者の業務としてアルコール検知器の使用が義務化されます。しかし、多くの業界では義務化されていません。
運送事業に従事していない会社でも、業務上車両の運転が必要になることもあるでしょう。アルコールチェッカーの導入や検知器の携帯などを義務付けるなど、検査制度を導入することで、飲酒運転のリスクを軽減することができます。
懲戒処分の具体化
一般的な懲戒処分内容の明確化はもちろん、飲酒関連の処分内容を具体化することが重要です。
就業規則や職務規定に、飲酒に関する禁止事項や処分内容の詳細を明記し、従業員に周知しましょう。
まとめ
飲酒運転は、当事者である従業員だけでなく、所属する会社にも甚大な損失をもたらす可能性があります。
飲酒運転を根絶するためには、個人の意識はもちろん、会社全体としての取り組みが重要です。万が一を想定し、必要な予防策を確実に講じておかなければなりません。