COMPLIANCE 企業が順守する法令
一般企業・運送業の社会的信用失墜を防ぐために
「コンプライアンス」とは
「コンプライアンス」(Compliance、直訳すると「法令遵守」を意味する)とは、法令や規則、社会的規範や倫理などを遵守することをいいます。コンプライアンスには様々な種類がありますが、一般的に「企業コンプライアンス」を指します。「企業コンプライアンス」(Corporation compliance)とは、企業が法律や内規等の基本的ルールを守って活動することを指し、法令に限らず社会的規範や企業倫理(モラル)を守ることも含むとするケースもあります。
たとえば、商品を製造するときに環境に優しい素材を使用していることを自社ホームページで公開している企業があるとします。
これは企業が市民や地域に貢献するべきというCSR(企業の社会的責任)の考え方をもとに行われており、コンプライアンスの一つとして認識されています。法令を守るだけではなく、企業の社会的責任を果たすことを含む広義のコンプライアンスに取り組むことで、社会からの信頼を得られる、企業の知名度を上げるといったメリットがあります。反対に、コンプライアンス違反があれば社会からの信頼を失い、企業活動にも悪影響があったということになりかねません。
なぜ企業にとって、コンプライアンスが重要なのか
近年、企業においてコンプライアンスを重視することが求められています。法令違反や法令の不備をついて事業を行う企業の存在によって、消費者等企業のステークホルダーが不利益を被る結果となるからです。
利益を追求する過程において、コンプライアンス意識が希薄になることは残念ながら存在します。しかし、その結果としてステークホルダーへの不利益に繋がることがあり、さらには企業自体の評判が地に落ちることさえあります。つまり、コンプライアンスを重視することは、ステークホルダーのみならず企業が自社を守ることにもなります。
特に、社会的存在として企業の社会に対する責任が叫ばれる昨今において、最低限のコンプライアンス対応は当然として捉えられています。コンプライアンスの取組みはコストも要しますが、企業のブランド価値を維持・向上させるためには重要な取組みとなります。
一般企業のコンプライアンスの取り組み
コンプライアンスを法令の遵守に留めず、社内規定・社会規範の遵守、さらには社会からの期待・要請に応ずることまで拡張していくなど、考え方は企業それぞれです。コンプライアンスの具体的な取り組みとしては以下のような例が挙げられます。
- 顧客への商品、サービスに関する情報提供の徹底
- 個人情報の管理
- 環境問題への取り組み
- ハラスメントの相談窓口の設置
- 働きやすい職場環境の整備
- 知的財産の保護
- 反社会的勢力との関係遮断 など
法律を守るという基本的な取り組みから、社会貢献的な取り組みまで、コンプライアンスの取り組みとしては様々な内容が考えられます。
ただ、法令を守っていたとしても、法律の抜け道をくぐって倫理的に問題のある行動を取ったとしたら、それはコンプライアンスとして正しい姿とは言えません。
コンプライアンス違反の事例
「コンプライアンス違反」とはどのような行為が当てはまるのか、よくある事例をご紹介します。
- ❶ 個人情報流出 企業が管理する顧客情報が、セキュリティの不備などにより流出してしまうこと。
- ❷ 労働問題 セクハラ、パワハラ、長時間労働、不当解雇、残業代未払いなどが該当します。
- ❸ 不正受給 働いたことを申告しない、または偽った申告をすることで国からの助成金などを不正に受給する行為。
- ❹ 不正会計 不正な会計処理によって、企業の経営状況が悪化しているにも関わらず、黒字として虚偽の申告をするなどの行為。
- ❺ 著作権、知的財産権の侵害など権利を脅かす行為。
- ❻ その他にも、インサイダー取引や横領、不当広告(虚偽、誇大)、産業廃棄物不法処理など様々。
このように、コンプライアンス違反にはさまざまな要因があります。最低限のコンプライアンス規範を確認し、違反防止に努めましょう。
また労働に関する法律も頻繁に改正が行われています。人事担当者は法律の内容をきちんと理解し、遵守しなければなりません。
人事面の違反としては以下のようなものが挙げられます。
- ❶ 違法な時間外、休日労働
- ❷ 賃金不払い残業
- ❸ プライバシーの侵害(従業員をビデオカメラでモニタリングするなど)
- ❹ ハラスメント問題(モラハラ、パワハラ、マタハラ)
- ❺ 雇用/採用における差別
- ❻ 安全義務の怠慢 など
特に人事面では、社員が気付かないうちにコンプライアンス違反を犯してしまいそうな例がたくさんあります。企業は後述するコンプライアンス違反とならないための取り組みを実行し、きちんと対策していく必要があります。
運送業における労働基準法・改善基準告示で知っておくべきこと
運送業に絡んで特に問題となるのは、労働時間と休日です。そこで、労働基準法および改善基準告示について確認した上で、それらの定めに関するポイントを紹介します。
(1)労働基準法と改善基準告示
労働基準法では、労働時間は1日8時間、週に40時間までと規定されています(労働基準法第32条1項)。これを法定労働時間といいます。いわゆる36協定を締結していれば法定労働時間を超過することも認められますが(同法第36条1項)、それにも制限があり、原則1か月45時間、1年360時間という上限があります(同法第36条4項)。もっとも、36協定による労働時間の延長限度基準(同法第36条4項)が適用されない一定の業種があり、その中には自動車運送業も含まれています(令和6年4月1日以降は原則適用される見込みです。※令和2年1月現在)。とはいえ、無制限に労働させられるわけではありません。
自動車運転者の労働条件の改善を図るため、厚生労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が策定されています。これが「改善基準告示」と呼ばれるものです。この告示は労働基準法に直接の根拠を持つものではありませんが、関係労使の代表を加えた小委員会における検討結果に基づき中央労働基準審議会から報告がなされ、厚生労働大臣が告示として官報に掲載し一般に公表したものであるため、遵守が要請されます。
(2)拘束時間
改善基準告示では、自動車運転者の拘束時間は
- 原則として1日13時間まで
- 延長する場合でも最大16時間まで
とされています(改善基準告示第4条1項2号)。また、
- 拘束時間が15時間以上となる日は1週間に2回まで
という規定もあります。
※拘束時間とは労働時間、休憩時間、その他の使用者に拘束されている時間をいいます(改善基準告示第2条かっこ書き)。
(3)手待ち時間(荷待ち時間)
手待ち時間(荷待ち時間)については、運転時間や整備・荷扱いの時間と同様、労働時間に含まれます。
(4)休息期間
休息期間とは、使用者の拘束を受けない期間で、勤務と次の勤務の間にあって、直前の拘束期間における疲労の回復を図るとともに、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、その処分は労働者の全く自由な判断にゆだねられる時間をいいます。この休息期間については、原則として継続する8時間以上の休息が必要と定められており、勤務と勤務の間が8時間以上空いていなければなりません。
(5)運転時間
運転時間についても、
- 継続で4時間
- 2日平均で1日9時間
- 2週間平均で週あたり44時間
といった限度が定められています(改善基準告示第1項4号、5号)。
(6)休日
休日とは
- 休息期間+24時間の連続した時間
をいい、32時間を下回ってはならないとされています。
義務化されたアルコール検知器の使用
飲酒運転事故が社会問題となる中、それに対する法規制や罰則は年々厳しくなっています。事業⽤⾃動⾞の運転者の飲酒運転を根絶するため、2011 年 5 月より自動車運送事業者には アルコール検知器の使用が義務化されました。
- 対象となる事業者
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- ⼀般旅客⾃動⾞運送事業者
- 特定旅客⾃動⾞運送事業者
- ⼀般貨物⾃動⾞運送事業者
- 特定貨物⾃動⾞運送事業者
- 貨物軽⾃動⾞運送事業者
※ これらの他、貨物⾃動⾞運送事業法第三⼗七条第三項の特定第⼆種貨物利⽤運送事業者も対象となります。
- アルコール検知器の備え付け
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営業所ごとにアルコール検知器を備える。
遠隔地で乗務を終了または開始する場合には、運転者に携帯型のアルコール検知器を携⾏させる。 - 点呼時の運転者の酒気帯びの有無の確認の際のアルコール検知器の使⽤
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乗務の開始前、終了後等において実施することとされている点呼の際に、運転者の顔⾊、呼気の臭い、応答の声の調⼦を⽬視等で確認することに加え、アルコール検知器を使⽤することにより、運転者の酒気帯びの有無を確認する。
- アルコール検知器の保守
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運⾏管理者はアルコール検知器を故障がない状態で保持しておくために、アルコール検知器の製作者が定めた取扱説明書に基づき、適切に使⽤し、管理し、及び保守するとともに、次の事項を実施しなければいけません。
- 毎⽇確認※
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- 電源が確実に⼊ること。
- 損傷がないこと。
※遠隔地で乗務を終了または開始する場合等、アルコール検知器を運転者に携⾏させ、⼜は⾃動⾞に設置されているアルコール検知器を使⽤させる場合にあっては、運転者が所属営業所を出発する前に実施すること
- 少なくとも週1回以上確認
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酒気を帯びていない者がアルコール検知器を使⽤した場合に、アルコールを検知しないこと。アルコールを含有する液体⼜はこれを希釈したものを、⼝内に噴霧した上でアルコール検知器を使⽤した場合に、アルコールを検知すること。
企業に問われる「コンプライアンスへの取り組み」まとめ
実際に企業がコンプライアンス対策を行う場合、形式的な対策だけで満足していては全く効を奏しません。各企業においては、継続的かつ実効的な対策が将来の会社のためにも不可欠と言えます。
現在は企業の社会的責任と存在意義が問われるテーマになっています。企業の存亡にかかわる重要課題ですが、取り組みの成果がでれば、企業価値を高めることにつながります。コンプライアンス体制の強化することで、具体的には次のような効果が期待できます。
企業コンプライアンス体制をホームページなどで公表することにより、消費者をはじめとした利害関係者から、リスクの少ない企業として信用を得ることができる。
積極的な環境活動や災害支援などの社会貢献活動を行うことにより、社会から評価を得ることができる。
労働環境を整備することで、社員のモチベーション、生産性の向上が期待できる。
従業員にコンプライアンスの考えを徹底させるには、行動や考え方の基準を具体的にし、日々の業務に反映できる状態をつくる必要があります。
企業倫理
企業倫理は、企業理念や企業の使命と言い換えても差し支えないでしょう。企業活動の基本になる価値観であり、社内外に自社の役割を宣言するものととらえる必要があります。さまざまな場面で判断に迷ったときには、企業倫理に立ち返り、方向のずれがないかを見直すことになります。
一般には、社会のなかで自社の果たす役割や存在意義、従業員の幸福の実現などを内容とします。倫理は建前で、実際には守られていない、守るのは無理という状況が起きないように注意します。
行動規範
企業コンプライアンスを推進していくためには、具体的な行動規範の策定が必要です。(名称は行動基準や行動指針などでも構いません。企業によってはそれぞれ別に策定しているところもあります。
コンプライアンスに対する教育の場の提供
コンプライアンスを強化するためには、全従業員がコンプライアンスについて正しい知識を身につけ、意識を高めていくことが重要です。そのため、従業員に対してのコンプライアンス教育が有効となります。重要性を認識してもらうことで、会社全体の意識改革に繋がっていきます。
まとめ
- 企業コンプライアンスは、法令だけではなく、社会的に求められる倫理規範や道徳規範なども遵守するものであり、企業が事業を継続していくうえでは必須のものになっている。
- 企業コンプライアンスは、法令違反によるリスクを回避、損失を軽減させるとともに、企業価値を向上させる役割を持っている。
- 企業コンプライアンスの行動規範を実践するにあたっては、経営トップが率先して発言、行動していくことが重要である。
- 企業コンプライアンス違反が発覚した場合には、経営トップへの報告が迅速になされる体制でなければならない。
役立つ参考サイトのご紹介
- 事業用自動車総合安全プラン2020
- 事業用自動車総合安全プラン2025
- 過労運転防止のための先進的な取り組みに対する支援
- 令和3年度自動車運送事業者における自動車事故対策費補助金
- 全日本トラック協会助成金
※ソシアックも、「安全装置等導入促進助成事業」の中の、「IT機器を活用した遠隔地で行う点呼に使用する携帯型アルコール検知器」として助成金の認定を受けています。